「教えるのが上手い人」をどう増やすか――OJTトレーナー育成の要点
OJTの質は、教える側のスキルで決まります。優秀なプレイヤーが必ずしも良い指導役とは限らない理由と、トレーナーを育てる要点を解説します。
OJTの成否は、教える人のスキルに大きく左右されます。ある住宅関連企業の指導者研修で印象に残っているのは、指導する側は「まず説明(TELL)しよう」とし、教わる側は「先に見本(SHOW)を見たい」と感じている、というずれでした。教え方を本人任せにすると、この出発点からすれ違いが始まります。 ところが多くの企業では、「仕事ができる人」がそのまま指導役に任命され、教え方は本人任せになっています。トレーナー育成もまた、項目を増やすよりOJTの設計として仕組みに組み込む順番が問われます。本記事では、OJTトレーナーを育てる要点を整理します。
「できる人」が「教えられる人」とは限らない
優秀なプレイヤーほど、自分のやり方が無意識化しています。 「なぜできるのか」を言葉にできないため、「見て覚えて」「なんとなく」になりがちです。 教えるスキルは、プレイヤーとしての能力とは別物。だからこそ、意図的な育成が必要です。
OJTトレーナーに必要な3つのスキル
1. 分解して伝える力
自分の動きを、手順や判断基準に分解して言語化する力。 「何を・どの順で・どう判断するか」を説明できることが出発点です。
そして、伝えるには順番があります。SHOW(見本を見せる)→ TELL(説明する)→ DO(やらせる)→ CHECK(確認して補う)。OJTの基本形として知られる型ですが、現場では最初のSHOWが抜けやすいところです。
ある研修で、指導役の方々に「教えるとき、何から始めますか」と尋ねたことがあります。多くは「まず口頭で説明する」と答えました。ところが同じ場で「自分がされて分かりやすかった指導は何でしたか」と振り返ってもらうと、挙がったのは「まず見本を見せてもらってから説明された」でした。教える側はTELLから入りたくなり、教わる側はSHOWが先だと分かりやすいと感じている。一つの研修で見えたことなので一般化はできませんが、思い当たる方は少なくないはずです。
言葉だけの説明は、聞き手に「頭の中で映像を組み立てる」作業を強います。先に完成形を見せてしまえば、その負荷は消えます。
見本を見せられない仕事は、どう教えるか
ここで当然の疑問が出ます。判断が中心の仕事、企画や折衝のように「動作」として見せられない仕事はどうするのか。
答えは、動作の代わりに判断の過程を見せることです。熟練者に、声に出してもらいます。
- どこを見たか
- 何を除外したか
- なぜその判断をしたか
このうち2つ目が肝心です。熟練者は、検討に値しない選択肢を一瞬で捨てています。その「捨てた」という作業こそ本人が最も無意識にやっていることで、しかも受け手が最も知りたいところです。
そのうえで、正解の事例だけでなく迷いやすい事例や境界にある事例を並べて比べ、本人にも判断させます。高度な仕事ほど、答えそのものより考え方を見せる必要があります。
2. 引き出す力
教え込むのではなく、問いかけて考えさせる。 「どうしてそう判断したの?」と問うことで、相手の理解が定着します。問いかけの引き出しはフィードバックの技術として型を持っておくと再現しやすくなります。
ただし、「もっと質問しましょう」と伝えるだけでは、まず変わりません。本当の障害は質問の技術ではなく、相談を受けた側の「答えを出してあげたい」という衝動だからです。
コーチング形式のロールプレイングでは、業種や役職の違う研修で、繰り返し同じ光景を見てきました。相手の話を受け止めないまま、次の質問に移る。質問しておきながら、相手が答え終わる前に自分の解決策を言ってしまう。会話のキャッチボールのつもりが、ドッジボールになっている状態です。
人は、自分で決めたことでなければ、なかなか実行に移しません。先回りして答えを渡すと、その場は解決したように見えて、部下の行動は変わらないままになりがちです。
だから順番はこうなります。受け止めてから、問う。質問例を覚えさせる前に、「相手の言葉を一度そのまま返す」練習を挟むほうが、はるかに効きます。この“オウム返し”が意外に難しい、という感想は、ほぼ毎回出ます。
3. 関わる力
進捗や心理状態に気を配り、安心して質問できる関係をつくる力。 心理的安全性は、教える側の関わり方からも生まれます。
トレーナー育成の進め方
- 役割と期待を明確にする:「指導役は何をする人か」を本人と組織で共有します。負担の丸投げを防ぎます。
- 教え方の型を渡す:フィードバックの型やOJT計画書など、共通のツールを提供します。属人化を防ぐ土台になります。
- トレーナー同士で振り返る:指導の悩みを共有する場をつくると、ノウハウが組織に蓄積されます。
- 育成への貢献を評価する:指導の手間が報われる仕組みがあって初めて、現場は本気で取り組みます。
まとめ
「教えるのが上手い人」は、生まれつきではなく育てられるものです。 分解して伝える・引き出す・関わる――この3つのスキルを支援し、トレーナーを孤立させない仕組みをつくることが、再現性のあるOJTへの近道です。大切なのは、施策を一度に増やすことではなく、どこから整えるか=改善の順番です。
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この記事のまとめ
優秀なプレイヤーほどやり方が無意識化しているため、「仕事ができる人」が「教えられる人」とは限りません。OJTトレーナーには「分解して伝える力」「引き出す力」「関わる力」の3スキルが必要です。教える順番はSHOW(見本を見せる)→TELL(説明する)→DO(やらせる)→CHECK(確認して補う)で、現場では最初のSHOWが抜けやすくなります。また問いかけを増やす前に、相談を受けた側の「答えを出してあげたい」衝動を自覚させることが先です。
- ✓ できる人と教える人は別
- ✓ 教える順番はSHOWから
- ✓ 質問より先に受け止める
- ✓ トレーナーを孤立させない
よくある質問
Q. 仕事ができる人を指導役にすればOJTはうまくいきますか?
A. 優秀なプレイヤーほどやり方が無意識化していて「なぜできるのか」を言葉にできないため、必ずしも良い指導役になるとは限りません。教えるスキルはプレイヤーとしての能力とは別物で、意図的な育成が必要です。
Q. OJTトレーナーに必要なスキルは何ですか?
A. 自分の動きを手順や判断基準に分解して言語化する「分解して伝える力」、問いかけて考えさせる「引き出す力」、安心して質問できる関係をつくる「関わる力」の3つです。
Q. OJTトレーナーを育てるにはどう進めればよいですか?
A. 役割と期待を本人と組織で明確にし、フィードバックの型やOJT計画書など教え方の型を渡し、トレーナー同士で振り返る場をつくり、育成への貢献を評価する仕組みを整えます。
Q. 指導役に「教え方」を渡すとき、何から伝えればよいですか?
A. 伝える順番から渡してください。SHOW(見本を見せる)→ TELL(説明する)→ DO(やらせる)→ CHECK(確認して補う)の順です。現場では最初のSHOWが抜け、口頭の説明から入りがちになります。言葉だけの説明は聞き手に「頭の中で映像を組み立てる」作業を強いるため、先に完成形を見せたほうが理解が早くなります。
Q. 「もっと質問を」と伝えても、上司がアドバイスばかりしてしまいます。
A. 障害は質問の技術ではなく、相談を受けた側の「答えを出してあげたい」という衝動です。人は自分で決めたことでなければなかなか実行に移せないため、先回りして答えを渡しても部下の行動は変わりにくいのです。質問例を覚えさせる前に「相手の言葉を一度そのまま返す」練習を挟むのが有効です。この伝え返しが意外に難しいという感想は、ほぼ毎回出ます。