規律と個性のあいだで――JAL国際線CAとして見えた「属人化」の正体
JAL国際線CAとして乗務した経験から見えた、属人化の本当の姿。同じマニュアルで学んでいるはずなのに生まれる差は、どこから来るのか。OJT設計パートナー髙山千衣の原点となった気づきを綴ります。
JALの国際線に乗務していた頃、私たちは徹底してマニュアルを叩き込まれました。機内のオペレーション、安全手順、サービスの流れ。すべてが細かく決められていて、それを守ることが何よりも優先されます。
安全を守るための「型」だと、頭では理解していました。
それでも、機内に立つと少し違う感覚がありました。同じ教育を受けているはずなのに、「この人と組むと、なぜか流れが良い」と感じる瞬間が確かにあるのです。
言葉にしづらい、でも確かに存在する差でした。
マニュアルの外側にある“判断”
国際線の機内は、いつも静かに揺れています。お客様の小さな要望、突然の体調変化、機材トラブル。予定通りにいくことの方が少ない世界です。
そんな中でのOJTは、シンプルにもなり得ます。たとえば「マニュアル通りにやればいい」とだけ伝えてしまうことです。
でも、それは本当の意味での指導ではないと、現場にいるうちに感じるようになりました。
印象に残っている先輩は、必ず一言多かった人たちです。「なぜこの手順なのか」を、短くても必ず補足してくれる。
その一言で、マニュアルがただの手順書から、「判断の理由」に変わる瞬間がありました。
一方で、「私はこうしていたから」という教え方もあります。それは経験としては正しいのかもしれませんが、受け取る側には“形”だけが残ってしまうことがあります。
気づけばそれは、その人の癖やリズムのコピーになっていく。そして別の機材、別のチームに移ったときに、少しずつ歯車が合わなくなる。
そんな場面を何度か見ました。
閉じた空間がつくる見えない差
長距離フライトのクルーは、数人のチームで何時間も同じ空間を共有します。外からは見えない、小さな社会のようなものです。
そこでの育成は、とても繊細です。
誰と組んだか。どのタイミングで何を教わったか。どんな空気の中で過ごしたか。
それらが、そのままスキルの差になっていきます。
「あの先輩と飛んだ後輩は伸びるよね」という言葉を聞くたびに、それは個人の才能というより、構造の話なのではないかと思っていました。
正確には、能力の差というより、経験の“種類”の差なのだと思います。どんな状況を任され、どんな判断を間近で見てきたか。その積み重ねが、後からスキルの差として現れてくる。
見えない場所で決まってしまう差。それが、属人化の正体だったのかもしれません。
「おもてなし」という曖昧な領域
特に属人化しやすいのは、「おもてなし」や「気配り」といった領域でした。そこはどうしても、センスや感覚の話として語られがちです。
でも現場にいると、それは完全な“才能”ではないようにも感じます。
たとえば、お客様の視線の動き。荷物を置くタイミング。少しの沈黙の意味。イレギュラーが起きたときに、何を優先するか。
そうした断片をどこまで見ているかで、判断は変わっていきます。
そしてそれは、本来もう少し分解できるものだとも思いました。
フライト後のデブリーフィングで、「なぜそうしたのか」を一度立ち止まって言葉にすること。うまくいった理由も、そうでなかった理由も、できるだけそのまま残していくこと。
そうやって初めて、個人の経験がチームの知識に変わっていく。
属人化は、悪意というより「言語化されないまま積み重なった結果」なのだと思います。
この記事のまとめ
同じマニュアル・同じ教育を受けていても、指導する人によって育ち方に差が生まれる――JAL国際線CAとして乗務した経験の中で、著者はその差の正体が「手順を守らせるだけの指導」と「判断の理由まで伝える指導」の違いにあることに気づきました。属人化は個人の才能の差ではなく、経験が言語化されないまま積み重なった結果だという気づきが、OJT設計という考え方の原点になっています。
- ✓ 同じマニュアル・同じ教育を受けていても、指導する人によって育ち方に差が生まれる。
- ✓ 差を生むのは、手順を守らせるだけの指導と、判断の理由まで伝える指導の違い。
- ✓ 属人化は悪意や才能の差ではなく、経験が言語化されないまま積み重なった結果である。
よくある質問
Q. この経験から、OJT設計として実務に活かせることは何ですか?
A. 手順を伝えるだけでなく「なぜその判断をしたか」を言葉にする機会を、指導の中に意図的に組み込むことです。フライト後のデブリーフィングのように、うまくいった理由もそうでなかった理由も振り返って言語化することで、個人の経験がチームの知識に変わっていきます。